ブログを書くために私は港へ行く

港に行きたいと思った。深夜3時に。

 

突然そんなことを言い出す女がいたら

ちょ、お前、大丈夫?病んでる?

なんて反応をされるのは重々承知である。

 

それでも私は港に行きたいと思った。

 

単なる思い付きではなかった。

というのも、ここ数日考えていたのだ。

 

このブログのテーマについてである。

 

2019年12月。私は武井壮のインタビュー記事を読んだ。

彼は「20代は宝物を手に入れる時間」と決めていたそうだ。

人生の目標を明確に掲げ、そのために必要な技術や経験を20代のうちに培った。(アメリカにゴルフ留学に行ったり台湾の野球チームのコーチをしたりしてたらしい)

 

武井壮のストイックぶりに圧倒されつつもかなり感化された私は、20代のうちにブログを始めることにした。

 

しかしテーマが見つからない。

 

そもそも、ブログって今流行ってるのか。やっぱYoutubeとかじゃないのか。

なんでブログにしたんだろうと早くも後悔しつつも、既にはてなブログProに8434円払ってるから引き返せない。

形から入るタイプの自分を呪う。

 

試しに書けそうなことを紙に書き出してみようとペンを持った。

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・・・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

 

 

書けない。

そもそも、誰が興味ある?

 

20代超絶引きこもり航海士の平凡な毎日など誰が興味ある?

 

いや、もしかしたら一部の人は関心を抱いてくれるかもしれない。

女性航海士の恋愛事情や休暇の過ごし方を新鮮に捉えてくれる方もいるかもしれない。

 

でもそれは私のブログが少なくともある程度の数の人に見られるようになってからの話ではないか。

 

私自身に興味を持ってもらえていない状況にもかかわらず大して面白くもない自らの私生活を語り始めるなど恥ずかしすぎやしないか。

 

てかやっぱりブログじゃないほうがいいんじゃないか。

 

そんな風に考えあぐねていると、脳内にある人物の顔が浮かんだ。

 

ナポレオン・ヒル。

 

成功哲学の祖といわれ、名著『思考は現実化する』を執筆したその人である。

 

彼は言った。モチベーションは炎のようだと。

常に燃料を補給しなければ消えてしまうものだと。

 

やばい、消えかかってる。

テーマ考えてるうちにかなり炎小さくなってる。

 

急いで本棚にある思考は現実化するを手に取った。分厚い本の表紙で微笑をたたえるナポレオンはどこか真剣な眼差しでもあった。

 

成功哲学を研究し本にまとめ上げアメリカの億万長者となった彼も、無給でインタビューをすることから始めたのだ。

称賛や報酬などのリターンがなければ始められないなら、一生始められない。

 

なんでもいいから、書くんだ。

 

海洋大卒外航船員の私にかけることは何か。

海だ。

海で人がやってなさそうなことは何か。

釣りじゃない。マリンスポーツじゃない。

 

 

港だ。

 

 

だから、私は港に行きたい。

そう思ったのだった。

 

ただ、めちゃくちゃ嫌だった。

なぜなら、超絶インドアだからだ。

ブログを書くのはいい。でも港はきつい。

正直、潮風に吹かれるのが苦手だ。髪がギシギシする。そして何よりも寒い。それに尽きる。

何か大きな目的がなければ、絶対に外に出れない。

 

目的が……

 

 

そうだ、写真だ。

 

 

ということで趣味でもない写真をとるために港へ行くことになった。

 

思い立ったが吉日、一睡もしないままお茶の水にカメラを買いに行った。

面白そうなのでトイカメラにした。

 

 

twitter.com

 

 

JR御茶ノ水駅を出て東京医科歯科大学の脇を通り抜けすこし歩いた先にBONZ SHOPはあった。

 

ネットの情報でお店はすぐに見つけられたが、外観がお店っぽくないためか入るのを少し躊躇する。

透明なガラスの戸を引くと開けると、立てかけられていた棒状に丸まっている画用紙が倒れた。

 

小さく声をかけると奥から作業をしていた男性が出てきてくれた。

 

トイカメラが欲しいことを伝えると30代くらいの別の男性が呼ばれた。どうやらカメラ担当はこの方らしい。

 

「昔っぽい写真が撮りたくて、液晶画面付きで、USB充電ができて……」

 

電車の中で調べまくった知識を総動員して要望を伝えると、色とりどりの商品がカウンターに並べられた。

さすが、トイカメラだけあってピンクや水色など鮮やかな配色が印象的だ。

 

その中に、私が目を付けていた商品があった。彼らの自社製品らしい。

 

「あ、これ買おうと思ってて……」

 

すると彼は答えた。

 

「ああ、たしかに昔のケータイで撮ったような写真が撮れますよ。ただ、それならチェキもおすすめなんですよ。」

 

そういって彼は他社の製品を紹介した。

そしてチェキで実際に写真を撮ってくれたり、その製品で今までに撮った写真を見せてくれたりした。

 

じわじわとフィルムに浮かび上がる写真はレトロでノスタルジックで、とても素敵な色合いだった。

 

ただ、自社の製品じゃないものをこんなに詳しく紹介するのか。

驚きつつ少し心配すらしていると、彼は言った。

 

「初心者の方にはただ写真の良さを知ってもらいたくて。スマホで写真を撮って加工するのもいいですけど、現物のぬくもりってやっぱりあるじゃないですか。お金を出すなら、色々な製品を知ってからのほうがいいと思います。」

 

私は、机に置かれた石畳が写ったチェキを眺めながら大きく頷いた。

それはとても味があって思わず外国みたいと呟くと、写真の端に移った足影を指さして言った。

 

「これ、奥さんなんです」

 

微笑む彼を見てああ、と理解した。

本当に好きなものがある人はこんなに輝いているのか。

 

少しうらやましいと思ってしまった。

 

沢山説明してらもらったにもかかわらず「まずは品ぞろえのある家電量販店に行った方がいい」

という彼の快い提案で、結局何も買わずに出てきてしまった。

 

坂を降りビックカメラに向かう途中、神田明神が左手に見えた。

 

晴れの日だった。暖かかった。

 

神田明神で願い事をしたあと、私はチェキを買った。

引きこもりだけど、外に出なければわからない景色を撮ろうと思った。